広島高等裁判所 昭和29年(う)24号 判決 1954年4月28日
控訴人 原審検察官
被告人 箸強 外二名
検察官 岡辺正男
主文
本件控訴を棄却する。
理由
検察官坂本杢次の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
これに対する当裁判所の判断は次の通りである。
公職選挙法第二三五条第二号所定の虚偽事項の公表罪は、過失の場合をも罰すべき法意の見るべきものはなく、又公表事項の虚偽性は同罪の構成要件の内容を為しているものであるから、同罪の成立には一般の犯罪と同じく犯人に故意即ち犯人において行為当時当該公表事項が虚偽の事項であることを認識していたことを要するものというべく、名誉毀損罪に関する刑法第二三〇条第二三〇条の二の如く真実性の証明が為されない限り処罰を免かれないとするものでないことはいうまでもない。
そして、本件は記録によると、被告人等は原審公判廷において終始一貫して本件ビラの内容は真実の事項であつて、虚偽の事項では断じてないと、極力争つていたものであることが明らかであるから、従つて又前記の故意も有しなかつたと主張するものであることも当然とするところである。
さて、本件ビラの内容が客観的に判断して果して虚偽の事項に属するかはた又真実の事項に属するかは、記録に現われた諸般の証拠によるもその判定は必ずしも容易ではないけれども、その真偽のほどはしばらく措き、記録中の鑑定人岡倉古志郎、同中村哲の各鑑定書の記載等に徴するも、当時被告人等としては巷間に広く流布されていた新聞、雑誌その他の記事などにより、右の事項は虚偽のものではないと信じていたものであることを窺知することができ、虚偽の事項であることを認識しながら敢てしたと認むべき証拠は記録中に見当らないところである。従つてたとえ本件ビラの内容は客観的には虚偽のものであるといい得るとしても、被告人等には本件犯意はなかつたものといわなければならない。して見れば、原判決が被告人等に対し無罪を言渡したのは、理由はともかくとして結局において正当であつて、論旨はその理由がないから、刑事訴訟法第三九六条に従い本件控訴を棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 柳田躬則 判事 尾坂貞治 判事 石見勝見)